建物の維持保全

2020年03月01日

 

 

はじめに   お客様相談室長  畑 靖男            2008年04月01日初版

 

 この一文は、独立行政法人 雇用・能力開発機構 の依頼により、賃貸住宅管理会社の社員教育向けに作成し、能力開発セミナーで講義したテキストです。

 

 マンションを買おうとするとき、「マンションは管理を買え」といわれる。

 マンションを購入する時に、価格に見合う外観や住みよさを求めるのは当たり前だが、管理は一部を除いて具体的に目に見えるものがないので、管理まではなかなか気がまわらないのが普通であろう。しかし、長い目で見ると管理の良し悪しでマンションの資産価値はおおいに違ってくる。

 

 賃貸住宅においては、従来、建物所有者は、家賃収入や募集という面ばかりに目が行き、建物の管理という面ではあまり重要視していなかった。それゆえ、物件の近か場の不動産屋さんに依頼することが多く、管理といえば清掃ぐらいで、それも片手間に行なうような状態であった。法的に義務付けられた設備の点検でさえ放置されることもしばしばあった。

 しかしながら、賃貸住宅にも、建物を資産としてとらえ、入居者管理だけでなく、建物との一体的な管理を専門的に実施していこうという機運が生まれ、単なる不動産会社でなく、管理を主業務とする賃貸住宅管理会社が生まれた。

 

 総務省統計局による「平成15年度住宅、土地統計調査」によると、全国の総住宅戸数は約5389万戸に達し、その内総借家数は約1567万戸で33.4%を占める。内訳は民営が約1256万戸、公営・公社が約311万戸で、民営借家は総借家数の実に73.2%、総住宅数の中でも26.8%を占め、4戸に1戸が民営借家ということになる。

 賃貸住宅管理会社が、建物の維持管理をシステム的に運営するようになって日はまだ浅い。民営借家は分譲マンションより歴史も古く、戸数も3.1倍もあるにもかかわらず、管理という面ではおろそかにされていた。経済状況での右肩上がりが鈍化し、家賃収入の増額が望めなくなると、今ある資産をいかにして良質の状態を保ち、できるだけ長持ちさせるという方向に向かうのは必然的なことであった。

 

 分譲マンションの管理には、マンション管理士、管理業務主任者という国家資格が生まれたが、賃貸住宅管理においても、平成19年7月に「賃貸不動産経営管理士」制度が創設された。そして、資格取得のための第1回目の講習が10月東京で実施され、11月には大阪でも実施された。

 これは、「財団法人 日本賃貸住宅管理協会」、「社団法人 全国宅地建物取引業協会」、「社団法人 全日本不動産協会」の3団体が、それぞれの団体で実施していた賃貸不動産の管理に関わる資格・研修制度を統一化して、より質の高い資格を志すものである。

 

 近年になって、賃貸住宅の管理は、社会情勢の変化や技術の進歩等により建物や設備等が、高度化・複雑化・多様化し、一方、入居者の意識の向上も相まって、きめの細かい、しかも質の高い管理が求められるようになり、従来型の言い換えると片手間の管理では対応しきれなくなった。そこで、社会的ニーズに対する使命感と専門的な知識とに基づいて、第三者的な公正な管理のできる専門家が求められるようになった。

 現在は、「社団法人 日本住宅建設産業協会」を加えた4団体で「賃貸住宅経営管理士協議会」が構成され運営されており、「賃貸不動産経営管理士」の資格については、同協議会の所定の講習を受け、手続きを経たうえで、同協議会が認定している。

 

 その目指すところは、今後ますます重きをなす賃貸不動産管理業務の公共性と社会的意義の重要性に鑑みて、同業務のプロフェッショナルを育成し、賃貸不動産管理業の社会的向上を図ることである。そのために、賃貸不動産経営管理士には、法令遵守(コンプライアンス)と高い専門性や道徳・倫理性を求める「賃貸不動産経営管理士『倫理憲章』」(別紙)を設け、この憲章を誠実に遵守する旨の署名捺印が義務付けられている。

 

 さて、賃貸管理業務は、次表のように多岐にわたっているが、ここでは、建物の維持管理と長期修繕計画について述べる。本書は、賃貸住宅管理の中でも、建物の維持管理に関心を持つ人への入門書である。